「洋書に出てくる英語表現」の第94回は、フレーズ編の第77回として「smell a rat」を取りあげます。
- Smell a ratの意味と由来
- Smell a ratの英語による定義
- 洋書におけるsmell a ratの出現頻度
- Smell a ratの年代分布
- Smell a ratの出現パターン
- 洋書内の実例
- 実例1:The Mystery of the Blue Train (1928)(邦題『青列車殺人事件』、アガサ・クリスティ = 著)より
- 実例2:White Angels (2004)(邦題『白の軍団:ベッカムとレアル・マドリードの真実』、ジョン・カーリン = 著)より
- 実例3:Misery (1987)(邦題『ミザリー』、スティーヴン・キング = 著)より
- 実例4:The Difference Engine (1990)(邦題『ディファレンス・エンジン』、ウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリング = 著)より
- 実例5:Rich Dad’s PROPHECY: Why the Biggest Stock Market Crash in History Is Still Coming… and How You Can Prepare Yourself and Profit from It! (2002)(邦題『金持ち父さんの予言:嵐の時代を乗り切るための方舟の造り方』、ロバート・キヨサキ + 公認会計士シャロン・レクター = 著)より
- 実例6:A Study in Scarlet (1888)(邦題『緋色の研究』、アーサー・コナン・ドイル = 著)より
- 実例7:Lord Edgware Dies (1933)(邦題『エッジウェア卿の死』、アガサ・クリスティ = 著)より
- 実例8:MONEYBALL: The Art of Winning an Unfair Game (2003)(邦題『マネー・ボール〔完全版〕』、マイケル・ルイス = 著)より
- Smell a ratのまとめ
Smell a ratの意味と由来
直訳すると、「ネズミの臭いを嗅ぎつける」となります。
この表現は、次の文章で比喩として使われているように猫がネズミの臭いを嗅ぎつけることに由来します。
“Don’t tarry. And when you hear Morgan’s diligence coming, get off the road and get deep into the woods. Deep. Or he’ll smell you like a cat smells a rat. He knows instantly if something is out of order. His order. He’s a devil.”
「ぐずぐずするな。モーガンの馬車の音が聞えたら、道からそれて林の奥に逃げこむのだ。奥のほうへだぞ。さもないと、ネコがネズミを嗅ぎつけるように、おまえを嗅ぎ当てるだろう。奴の命にそむく者がいれば、たちまちそれを感知するのだ。奴は悪魔だ」
引用元:
(英語原著)THE TALISMAN (1985) by Stephen King & Peter Straub; 7 Farren
(日本語版)『タリスマン(上・下)』(スティーヴン・キング、ピーター・ストラウブ = 著、矢野浩三郎 = 訳)、新潮社(1987/7);上巻・第7章(ファーレン)より
アニメ『トムとジェリー(Tom and Jerry)』にもあるように、昔からネズミの臭いを嗅ぎつけるのはネコの仕事と考えられてきました。
ネコはネズミが目の前にいなくても、その臭いでネズミが近くにいるのではないかと感じ取ることから、この「smell a rat」という表現は「何かおかしいと感じる」を意味するフレーズとして広く使用されるようになりました。
日本語では「何かおかしいと感じる」のほか、「何か怪しいと感じる」、「不審に思う」、「嗅ぎつける」、「勘づく」などと訳されます。
日本語でも、何かおかしいと感じる時には「何かにおいますね」などと言ったりしますが、「smell a rat」はそれに近い英語表現と言えます。
Smell a ratの英語による定義
feel that something is wrong
洋書におけるsmell a ratの出現頻度
AA[高頻度: 高い頻度で洋書に出てくる必須の英語表現]
(AAA[超高頻度]、AA[高頻度]、A[中頻度]、B[低頻度]、C[まれ]の5段階で評価)
Smell a ratの年代分布
1888年 – 2015年*
(*当ブログで調査した1813年以降の洋書約1000冊のなかで、当該英語表現の使用が確認された洋書の発行年の範囲)
当ブログで調査した1813年以降に発行された約1000冊の洋書のなかで、当該表現の使用が確認された最も古い洋書は、1888年発行の『A Study in Scarlet(邦題:緋色の研究)』(アーサー・コナン・ドイル = 著)で、最も新しい洋書は2015年発行の『A Little History of the United States(邦題:若い読者のためのアメリカ史 )』(ジェームズ・ウエスト・デイビッドソン = 著)でした。
このように当ブログの調査では、1888年が最も古い使用例でしたが、複数の英文資料によると1500年代にもこの表現の使用例が見られるということです。
Smell a ratの出現パターン
smell a ratの用法に特に出現パターンと言えるような特別な型は見当たりません。
例文を挙げると次のようになります。
例文94-1)
I smelled a rat when I saw the look on his face.
私は、彼の顔に浮かんだ表情を見たとき、何かおかしいと感じました。
【単語ノート】
look on someone’s face = 表情、顔つき
例文94-2)
My husband used to make a beeline for home after work every day, but recently he often comes home late. I smell a rat.
私の夫は以前は毎日仕事が終わると家にまっすぐ帰ってきていたのに、最近は遅く帰ってくることが多くなりました。何か怪しいと思います。
make a beelineについては以下の記事で詳しく解説しています。
洋書に出てくる英語表現0092:make a beeline【おすすめ英語フレーズ編75】
「洋書に出てくる英語表現」の第92回は、フレーズ編の第75回として「make a beeline」を取りあげます。Make a beelineの意味と由来直訳すると、「ミツバチの線を作る」となります。...
洋書内の実例
それでは、実際に洋書内にみられるsmell a ratの使用例を紹介していきます。
実例1:The Mystery of the Blue Train (1928)(邦題『青列車殺人事件』、アガサ・クリスティ = 著)より
“Major Knighton was very particular to say it was Mr Van Aldin’s invitation,” said Lenox. “He said it so often that I began to smell a rat.
「ナイトン少佐はね、これはオルデンさんの招待だっていうことをとても念を押していたわよ。あまり何度もそれをくり返すんで私はさては臭いぞと思っちまったのよ。
引用元:
(英語原著)The Mystery of the Blue Train (1928) by Agatha Christie; Chapter 21 At the Tennis
(日本語版)『青列車殺人事件』(アガサ・クリスティ = 著、松本恵子 = 訳)、グーテンベルク21(2004/6);3(ローシ伯爵出頭)、テニスコートで、より引用
【単語ノート】
major = 少佐;専攻;主要な
実例2:White Angels (2004)(邦題『白の軍団:ベッカムとレアル・マドリードの真実』、ジョン・カーリン = 著)より
But during the Saturday afternoon, with the clock ticking, Perez and Valdano smelt a rat — one with a familiar whiff to it.
ところが土曜日の午後、期限が刻々と迫る中、ペレスとヴァルダノは何かきな臭い予感を、自分たちの慣れ親しんだ臭いを感じ取った。
引用元:
(英語原著)White Angels (2004) by John Carlin; 18: The Exterminating Angol
(日本語版)『白の軍団:ベッカムとレアル・マドリードの真実』(ジョン・カーリン = 著、有沢善樹 = 訳)、ランダムハウス講談社(2005/12);第17章(処刑天使)より
【単語ノート】
whiff = におい、香り
2002年の日韓ワールドカップでブラジルを優勝に導き、自身も8得点を挙げて得点王に輝いたロナウドは、2002-03シーズンの開幕前にイタリアのインテル・ミラノからスペインのレアル・マドリードに移籍します。
上記引用文は、この移籍について記載したもので、「ペレス」はレアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長、「ヴァルダノ」は同じくレアル・マドリードのスポーツディレクター、ホルヘ・ヴァルダノを指しています。この移籍は順調に進むかに思われましたが、レアル・マドリードのライバルであるバルセロナのガスパート会長がこの取引に一枚噛んできたことで、雲行きが怪しくなります。この引用文では、レアル・マドリードのペレスとヴァルダノの二人が、バルセロナのガスパート会長の仕掛けた罠を察知したことが「smell a rat」を用いて表現されていて、ここでは「何かきな臭い予感を感じ取った」と訳されています。
実例3:Misery (1987)(邦題『ミザリー』、スティーヴン・キング = 著)より
There was always the possibility, of course, that they would smell a rat. Rat-catching was, after all, their job, and they would know Annie’s background.
むろん、かれらがなにかを嗅ぎつける可能性はあった。なんといっても、犯罪の匂いを追うのがかれらの仕事だからだし、アニーの過去のことも知っているにちがいない。
引用元:
(英語原著)Misery (1987) by Stephen King; MISERY’S RETURN, CHAPTER 30
(日本語版)『ミザリー』(スティーヴン・キング = 著、矢野浩三郎 = 訳)、文藝春秋(1991/3);第三部 ポール、三〇より引用
実例4:The Difference Engine (1990)(邦題『ディファレンス・エンジン』、ウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリング = 著)より
“Well, will you come with me and help, then?”
「じゃあ、一緒に来て手伝ってくれるの……」
“Of course not! He’d know then, wouldn’t he? I told him you were a newspaper friend of mine. If I stay too long talking, he’ll smell a rat sure.”
「もちろん駄目さ。それじゃ、あいつに悟られちまうだろ。あいつには君が新聞社の友だちだって言ったんだ。あんまりいつまでも喋っていると、ヤツはきっと勘づく」
引用元:
(英語原著)The Difference Engine (1990) by William Gibson & Bruce Sterling; FIRST ITERATION The Angel of Goliad
(日本語版)『ディファレンス・エンジン』(ウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリング = 著、黒丸尚 = 訳)、角川書店(1991/6);上巻・第一の反復(ゴーリアドの天使)より
実例5:Rich Dad’s PROPHECY: Why the Biggest Stock Market Crash in History Is Still Coming… and How You Can Prepare Yourself and Profit from It! (2002)(邦題『金持ち父さんの予言:嵐の時代を乗り切るための方舟の造り方』、ロバート・キヨサキ + 公認会計士シャロン・レクター = 著)より
When Congress passed that law and left the job of financial education up to the people who work in the financial markets, rich dad smelled a very big rat.
議会が新しい法律を通過させ、ファイナンシャル教育を与える役目を金融市場で働く人間に任せてしまった時、金持ち父さんはこれは絶対おかしいと感じた。
引用元:
(英語原著)Rich Dad’s PROPHECY: Why the Biggest Stock Market Crash in History Is Still Coming… and How You Can Prepare Yourself and Profit from It! (2002) by Robert T. Kiyosaki and Sharon L. Lechter; Chapter 4 The Nightmare Begins
(日本語版)『金持ち父さんの予言:嵐の時代を乗り切るための方舟の造り方』(ロバート・キヨサキ + 公認会計士シャロン・レクター = 著、白根美保子 = 訳)、筑摩書房(2004/2);「第四章‥‥‥悪夢のはじまり」より引用
【単語ノート】
Congress = アメリカ連邦議会
この引用文では「rat」に「very big」を加えて「smell a very big rat」とすることで「おかしさ」が強調されていて、ここでは「絶対おかしいと感じた」と訳されています。
ちなみに、このように「very big」を加えた「smell a very big rat」は、著者のロバート・キヨサキ氏があくまでユーモアとして使っているだけで、よく見られる一般的な形というわけではありません。
実例6:A Study in Scarlet (1888)(邦題『緋色の研究』、アーサー・コナン・ドイル = 著)より
Her daughter was in the room, too – an uncommonly fine girl she is, too; she was looking red about the eyes and her lips trembled as I spoke to her. That didn’t escape my notice. I began to smell a rat.
マダムの娘というのも、部屋にいあわせたんですが — これがまた、ざらにないほどのべっぴんなんです。ところがこれが、目を真っ赤に泣き腫らしてるわ、話しかけると口もとがふるえるわで、当然こっちとしても、それを見のがすわけがない。くさいぞと思いはじめたわけです。
引用元:
(英語原著)A Study in Scarlet (1888) by Arthur Conan Doyle; Chapter VI. Tobias Gregson Shows What he Can Do.
(日本語版)『緋色の研究 【新訳版】 シャーロック・ホームズ・シリーズ (創元推理文庫) 』(アーサー・コナン・ドイル = 著、深町眞理子 = 訳)、東京創元社(2010/11);6(トバイアス・グレグスン、腕をふるう)より
【単語ノート】
tremble = (身体が)小刻みに震える、身震いする
実例7:Lord Edgware Dies (1933)(邦題『エッジウェア卿の死』、アガサ・クリスティ = 著)より
You didn’t ask her whether she had called for the parcel in Paris. I suppose you thought if she repeated that to me I should smell a rat. As it was, it came as a complete surprise.
あなたはエリスに巴里(パリ)へ包みを受け取りに行ったかどうか、お尋ねになりませんでしたね。きっとあなたのおっしゃったことを、エリスが私に話した時に、私が嗅ぎつけるとお思いになったのでしょう。まったく私にとっては、まったく不意打ちでした。
引用元:
(英語原著)Lord Edgware Dies (1933) by Agatha Christie; Chapter 31
(日本語版)『エッジウェア卿の死』(アガサ・クリスティ = 著、松本恵子 = 訳)、グーテンベルク21(2013/3);人間記録、より引用
【単語ノート】
parcel = 小包
実例8:MONEYBALL: The Art of Winning an Unfair Game (2003)(邦題『マネー・ボール〔完全版〕』、マイケル・ルイス = 著)より
Volcker smelled a rat. If results in pro baseball were so clearly determined by financial resources, how could there be even a single exception?
何か秘訣があるのではないか、とボルカーはにらんだわけだ。プロ野球の結果が財力だけで決まるのであれば、例外が存在するのはおかしい。
引用元:
(英語原著)MONEYBALL: The Art of Winning an Unfair Game (2003) by Michael Lewis; Chapter Six: The Science of Winning an Unfair Game
(日本語版)『マネー・ボール〔完全版〕』(マイケル・ルイス = 著、中山 宥 = 訳)、早川書房(2013/4);第6章(不公平に打ち克つ科学)より引用
メジャーリーグ野球選手会によって設立された「球界の財政に関する諮問委員会」は、野球における経済格差に関する報告書を2000年7月に完成させます。
その報告書によると、資金力の乏しい球団は不公平な戦いを強いられていて、そうした不公平が球界全体に悪い影響を与えているとのことで、不公平を是正する手段を講じるべきであると結論されていました。
しかし、諮問委員の一人、ポール・ボルガーはこの結論に対してある疑問を投げかけました。資金力の乏しい球団が不公平な戦いを強いられているのであれば、メジャーリーグの全球団の中で2番目に資金力の乏しいオークランド・アスレチックスがなぜ勝ち星を積み重ねているのかという点でした。
オークランド・アスレチックスは、ビリー・ビーンがGMに就任してから順調に勝ち星を伸ばしていて、就任直後の1998年に74勝だったのが1999年には87勝を挙げ、この報告書が完成した2000年には91勝で地区優勝を果たします。
上記引用文では、こうした点から、オークランド・アスレチックスの快進撃の裏にはお金ではない何かがあるのではないかと感じたことが「smell a rat」を用いて表現されていて、ここでは「何か秘訣があるのではないか、とボルカーはにらんだ」と訳されています。
Smell a ratのまとめ
それでは、最後に以上の内容をまとめておきます。
smell a rat
- 由来:ネコはネズミが目の前にいなくても、その臭いでネズミが近くにいるのではないかと感じ取ることから。
- 意味: 何かおかしいと感じる、何か怪しいと感じる、不審に思う、嗅ぎつける、勘づく
- 英語による定義: feel that something is wrong
- 出現頻度:AA[高頻度: 高い頻度で洋書に出てくる必須の英語表現]
- 出現パターン:特に出現パターンと言えるような特別な型は見当たりません。
- 例文:
I smelled a rat when I saw the look on his face.
私は、彼の顔に浮かんだ表情を見たとき、何かおかしいと感じました。
My husband used to make a beeline for home after work every day, but recently he often comes home late. I smell a rat.
私の夫は以前は毎日仕事が終わると家にまっすぐ帰ってきていたのに、最近は遅く帰ってくることが多くなりました。何か怪しいと思います。
2つ目の例文内で使われているmake a beelineについては以下の記事で詳しく解説しています。
洋書に出てくる英語表現0092:make a beeline【おすすめ英語フレーズ編75】
「洋書に出てくる英語表現」の第92回は、フレーズ編の第75回として「make a beeline」を取りあげます。Make a beelineの意味と由来直訳すると、「ミツバチの線を作る」となります。...
今回は、以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。