「洋書に出てくる英語表現」の第83回は、フレーズ編の第66回として「a drop in the bucket」を取りあげます。
- A drop in the bucketの意味と由来
- A drop in the bucketの英語による定義
- 洋書におけるa drop in the bucketの出現頻度
- A drop in the bucketの年代分布
- A drop in the bucketの出現パターン
- 洋書内の実例
- 実例1(パターン1):Rich Dad’s Before You Quit Your Job (2004)(邦題『金持ち父さんの起業する前に読む本』、ロバート・キヨサキ + 公認会計士シャロン・レクター = 著)より
- 実例2(パターン1):Tim Cook (2019)(邦題『ティム・クック:アップルをさらなる高みへと押し上げた天才』、リーアンダー・ケイニー = 著)より
- 実例3(パターン1):Anne of The Island (1921)(邦題『アンの婚約』、L・M・モンゴメリ = 著)より
- 実例4(パターン1):My Autobiography (1964)(邦題『チャップリン自伝』、チャップリン = 著)より
- 実例5(パターン2):Life with My Sister Madonna (2008)(邦題『マドンナの素顔』、クリストファー・チコーネ/ウェンディ・リー = 著)より
- 実例6(パターン2):ZERO to ONE (2014)(邦題『ゼロ・トゥ・ワン:君はゼロから何を生み出せるか』 ピーター・ティール = 著)より
- 実例7(パターン2):Michael Owen: Off the Record (2004)(邦題『オーウェン』、マイクル・オーウェン = 著)より
- 実例8(パターン2):Open: An Autobiography (2009)(邦題『OPEN:アンドレ・アガシの自叙伝』、アンドレ・アガシ = 著)より
- A drop in the bucketのまとめ
A drop in the bucketの意味と由来
直訳すると、「バケツの中の1滴」となります。
この表現は、旧約聖書「イザヤ書」内の一節(40:15)に由来します。
Behold, the nations are like a drop in a bucket, and are regarded as a speck of dust on a balance. Behold, he lifts up the islands like a very little thing.
見よ、もろもろの国民は、おけの一しずくのように、はかりの上のちりのように思われる。見よ、主は島々を、ほこりのようにあげられる。
英語訳:The World English Bible (WEB), Book 23. Isaiah, 40:15
日本語訳:『聖書 口語』(日本聖書協会発行)初版(1955年版)、イザヤ書(40:15)
この聖書の一節のように一滴の水はバケツ一杯の水に比べるとごくわずかな量にすぎないことから、「a drop in the bucket」は「全体と比べてごくわずかな量」を意味するフレーズとして広く使用されるようになりました。
日本語では、「雀の涙」、「大海の一滴」、「はした金」、「微々たるもの」などと訳されます。
また、日本語で「大海の一滴」と訳されるように、「a drop in the bucket」は「a drop in the ocean」の形で使用されることもあります。
A drop in the bucketの英語による定義
a very small amount compared to the whole
洋書におけるa drop in the bucketの出現頻度
A[中頻度:高めの頻度で洋書に出てくる準必須の英語表現]
(AAA[超高頻度]、AA[高頻度]、A[中頻度]、B[低頻度]、C[まれ]の5段階で評価)
A drop in the bucketの年代分布
1843年 – 2019年*
(*当ブログで調査した1813年以降の洋書約1000冊のなかで、当該英語表現の使用が確認された洋書の発行年の範囲)
当ブログで調査した1813年以降に発行された約1000冊の洋書のなかで、当該表現の使用が確認された最も古い洋書は、1843年発行の『A Christmas Carol(邦題:クリスマス・キャロル)』(ディケンズ = 著)で、最も新しい洋書は2019年発行の『The Miracles of the Namiya General Store(日本語原著:ナミヤ雑貨店の奇蹟)』(東野圭吾 = 著)でした。
A drop in the bucketの出現パターン
a drop in the bucketの出現パターンは主に以下の2つに分類することができます。
パターン1:a drop in the bucket(基本型・最頻出パターン)
パターン2:a drop in the ocean
パターン1は「a drop in the bucket」の形で使用する基本形で例文を挙げると、次のようになります。
例文83-1)
I worked all day and earned 50 dollars yesterday, but it’s a drop in the bucket compared to my whole debt.
昨日、私は一日中働いて50ドル稼ぎましたが、それは私の抱えている借金全体に比べると微々たる量にすぎません。
パターン2は、「bucket」の代わりに「ocean」を使用するものです。パターン1とパターン2の意味や用法に違いはありません。例文を挙げると次のようになります。
例文83-2)
I donated 10 dollars to help children in Africa. I know it’s a drop in the ocean, but it’s better than doing nothing.
私はアフリカの子供たちを助けるために10ドル寄付しました。それが大海の一滴にすぎないことは私も分かっています。でも、何もしないよりはマシです。
洋書内の実例
それでは、実際に洋書内にみられるa drop in the bucketの使用例を紹介していきます。
まずは、「a drop in the bucket」の形で使用するパターン1から紹介します。
パターン1:a drop in the bucket(基本型・最頻出パターン)
実例1(パターン1):Rich Dad’s Before You Quit Your Job (2004)(邦題『金持ち父さんの起業する前に読む本』、ロバート・キヨサキ + 公認会計士シャロン・レクター = 著)より
The cost of hiring a trained accountant for guidance would be a drop in the bucket when compared to the money I lost.
正式な教育と訓練を受けた会計士を雇って指示を受けるのにかかる費用は、私が失ったお金に比べたらすずめの涙ほどの額だ。
引用元:
(英語原著)Rich Dad’s Before You Quit Your Job: 10 Real-Life Lessons Every Entrepreneur Should Know (2005) by Robert T. Kiyosaki with Sharon L. Lechter; Rich Dad’s Entrepreneurial Lesson #5 The Process Is More Important than the Goal
(日本語版)『金持ち父さんの起業する前に読む本:ビッグビジネスで成功するための10のレッスン』(ロバート・キヨサキ + 公認会計士シャロン・レクター = 著、白根美保子 = 訳)、筑摩書房(2006/11);金持ち父さんの起業家レッスン その五 「ゴールよりプロセスが大事」より引用
(英語原著Audible版)Audible-完全版(一冊無料!Audible無料体験
)
【単語ノート】
accountant = 会計士、計理士
実例2(パターン1):Tim Cook (2019)(邦題『ティム・クック:アップルをさらなる高みへと押し上げた天才』、リーアンダー・ケイニー = 著)より
“Apple’s charity efforts fall short when you look at the $97.7 billion the company now has in cash,” wrote reporter Sarah Mitroff in VentureBeat. The money “that Apple has given away is a small drop in the bucket even compared to $46.33 billion, the revenue Apple made in the first quarter of 2012.
「アップルが現在所有する現金が977億ドル(約10兆円)であることを鑑みると、寄付額は不十分であると言わざるを得ない」。ベンチャービートの記者であるサラ・ミトロフはこう記している。同社の寄付額は「2012年の第1四半期の収益である463億3000万ドル(約5兆円)と比較すると、雀の涙ほどしかない。
引用元:
(英語原著)Tim Cook (2019) by Leander Kahney;Chapter 6 Stepping into Steve Jobs’s Shoes
(日本語版)『ティム・クック:アップルをさらなる高みへと押し上げた天才』(リーアンダー・ケイニー = 著、堤沙織 = 訳)、SBクリエイティブ(2019/9);第6章(スティーブ・ジョブズの後を引き継ぐ)より引用
(英語原著Audible版)Audible-完全版(一冊無料!Audible無料体験
);サンプル再生時間約5分
【単語ノート】
revenue [ˈrɛvɪnjuː/ˈrɛvənju] = 歳入、収益
実例3(パターン1):Anne of The Island (1921)(邦題『アンの婚約』、L・M・モンゴメリ = 著)より
“Oh,” sighed Anne. “I can’t describe how I felt when I was standing there, waiting my turn to be registered — as insignificant as the teeniest drop in a most enormous bucket.
「ああ」とアンが吐息した。「あたしは、登録の順を待ってあそこに立ってたときの、あの気持、なんと言っていいか分からないわ。— 大バケツの中のひとしずくみたいに自分がはかなくなっちゃって —。
引用元:
(英語原著)Anne of The Island (1921) by Lucy Maud Montgomery; IV April’s Lady
(日本語版)『アンの婚約』(L・M・モンゴメリ = 著、中村佐喜子 = 訳)、グーテンベルク21(2014/3);第四章(四月夫人)より引用。Kindle Unlimited会員の方は¥0で読めます(2020/8/18確認)。(一冊無料!Audible無料体験
)
【単語ノート】
teeny [ˈtiːni/ˈtini]= とても小さな、ちっちゃい
enormous = 巨大な
実例4(パターン1):My Autobiography (1964)(邦題『チャップリン自伝』、チャップリン = 著)より
Nevertheless, Sydney sold newspapers between school hours, and though his contribution was less than a drop in the bucket, it did give a modicum of aid.
シドニイは学校の休み時間に新聞売りをした。稼ぎは微々たるものだったが、いくらかは家計の助けになった。
引用元:
(英語原著)My Autobiography (1964) by Charlie Chaplin; Chapter One
(日本語版)『チャップリン自伝』(チャップリン = 著、中野好夫 = 訳)、新潮社(1981);上巻(若き日々) 、第1章より引用
【単語ノート】
a modicum of = 少量の、わずかな
ごくわずかな量であることを強調するために、「a drop in the bucket」にjustやonlyを付けて「just a drop in the bucket」のように表現されることが多いのですが、この引用文のように「less than」で強調されることもよくあります。
次は、「a drop in the ocean」の形で使用するパターン2です。
パターン2:a drop in the ocean
実例5(パターン2):Life with My Sister Madonna (2008)(邦題『マドンナの素顔』、クリストファー・チコーネ/ウェンディ・リー = 著)より
After all, aren’t rock stars who hit it big supposed to take care of their families? But my sister — who in 2008 is worth in excess of $600 million and who has reportedly donated an estimated $18 million to Kabbalah — opted at the time to send our grandmother just $500 a month and to pay her monthly household bills, for Madonna, a drop in the ocean.
ビッグになったロックスターは、家族の面倒を見るものではないだろうか?しかし姉 — 二〇〇八年現在、六億ドル(約六百億円)を超える財産を持ち、約千八百万ドル(約十八億円)をカバラに寄付していると言われる — はそのとき、祖母に月々わずか五百ドル(約五万円)を送り、毎月の生活費を支払うだけでよしとした。マドンナにとっては、はした金もいいところだ。
引用元:
(英語原著)Life with My Sister Madonna (2008) by Christopher Ciccone; Chapter 1
(日本語版)『マドンナの素顔』(クリストファー・チコーネ/ウェンディ・リー = 著、長澤あかね = 訳)、ぶんか社(2008/12/1);第一章より引用
【単語ノート】
hit it big = 大成功する
「カバラ(Kabbalah)」とは、マドンナが傾倒しているユダヤ教の神秘主義思想のことです。
worthといえば「…価値がある、…に値する」という意味でよく使用されますが、この引用文のようにある人の持つ財産の量を表すことがあります。例えば、次のように使われます。
“I was worth about over a million dollars when I was twenty-three and over ten million dollars when I was twenty-four and over a hundred million dollars when I was twenty-five, and it wasn’t that important because I never did it for the money,” Jobs said.
「財産は二三歳のときに一〇〇万ドル以上、二四歳のときに一〇〇〇万ドル以上、二五歳のときに一億ドル以上あったが、そんなことたいして重要な問題ではなかった。金目当てでやってるわけではないから」とジョブズは言う。
引用元:
(英語原著)Inside Steve’s brain (2008) by Leander Kahney; introduction
(日本語版)『スティーブ・ジョブズの流儀』(リーアンダー・ケイニー = 著、三木俊哉 = 訳)、ランダムハウス講談社(2008/10);序章より引用
これはスティーブ・ジョブズが22歳の時にアップルコンピュータ社を正式に設立し、25歳の時にアップルコンピュータ社の株式を公開した当時を振り返っている有名な言葉で、worthを使って財産の量が表現されています。
実例6(パターン2):ZERO to ONE (2014)(邦題『ゼロ・トゥ・ワン:君はゼロから何を生み出せるか』 ピーター・ティール = 著)より
And compared to the total global power generation capacity of 15,000 gigawatts, your 100 megawatts is just a drop in the ocean.
そしてグローバルな総発電量の一万五〇〇〇ギガワットに比べると、一〇〇メガワットなんて大海の一滴にしかすぎない。
引用元:
(英語原著)ZERO to ONE (2014) by Peter Thiel with Blake Masters; 13 SEEING GREENAT
(日本語版)『ゼロ・トゥ・ワン:君はゼロから何を生み出せるか』(ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ = 著、関 美和 = 訳)、NHK出版(2014/9);第13章(エネルギー)より引用
(英語原著Audible版)Audible-完全版
実例7(パターン2):Michael Owen: Off the Record (2004)(邦題『オーウェン』、マイクル・オーウェン = 著)より
One week’s worth of knowledge is only a drop in the ocean.
一週間分の知識ですら、大海の一滴にすぎないのだ。
引用元:
(英語原著)Michael Owen: Off the Record (2004) by Michael Owen; 9 All the Pretty Horses
(日本語版)『オーウェン』(マイクル・オーウェン = 著、東本貢司 = 訳)、PHP研究所(2006/6);第9章(すべてのすばらしき馬たち)より引用
ここでは、サッカーではなく、競馬について記載されています。
競馬(ギャンブルとしての競馬ではなくスポーツとしての競馬)に強い関心を抱いていた元イングランド代表プロサッカー選手、マイケル・オーウェンは、自分の所有する馬の面倒を見てもらっている調教師に会うと、周りが呆れるほど調教師を質問攻めにしていたといいます。そしてそうした質問攻めで得られる知識ですら「a drop in the ocean」に過ぎないと表現されていて、ここでは「大海の一滴」と訳されています。
実例8(パターン2):Open: An Autobiography (2009)(邦題『OPEN:アンドレ・アガシの自叙伝』、アンドレ・アガシ = 著)より
Again, I skip Wimbledon. I hear another chorus of jeers from the media. Agassi doesn’t win the slams he enters, and then he skips the slams that matter most. But it feels like a drop in the ocean. I’m becoming desensitized.
ふたたび僕はウインブルドンを欠場する。またもやメディアからあざけりのコーラスが上がる。アガシは出場するグランドスラムで優勝しないどころか、最も重要なグランドスラムを欠場する、と。だがそれは大海原に落ちた1滴のようなもの。次第に僕は鈍感になりつつある。
引用元:
(英語原著)Open: An Autobiography (2009) by Andre Agassi; Chapter 9
(日本語版)『OPEN:アンドレ・アガシの自叙伝』(アンドレ・アガシ = 著、川口由紀子 = 訳)、ベースボール・マガジン社(2012/5);第9章より引用
(英語原著Audible版)Audible-完全版(一冊無料!Audible無料体験
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【単語ノート】
jeer [ʤɪə/ʤɪr] = あざけり;あざける
desensitize = 鈍感にする
A drop in the bucketのまとめ
それでは、最後に以上の内容をまとめておきます。
a drop in the bucket
- 由来:旧約聖書「イザヤ書」内の一節(40:15)に由来。一滴の水はバケツ一杯の水に比べるとごくわずかな量にすぎないことから。
- 意味:全体と比べてごくわずかな量、雀の涙、大海の一滴、はした金、微々たるもの
- 英語による定義: a very small amount compared to the whole
- 出現頻度:A[中頻度:高めの頻度で洋書に出てくる準必須の英語表現]
- 出現パターン:
パターン1:a drop in the bucket(基本型・最頻出パターン)
パターン2:a drop in the ocean - 例文:
I worked all day and earned 50 dollars yesterday, but it’s a drop in the bucket compared to my whole debt.
昨日、私は一日中働いて50ドル稼ぎましたが、それは私の抱えている借金全体に比べると微々たる量にすぎません。
I donated 10 dollars to help children in Africa. I know it’s a drop in the ocean, but it’s better than doing nothing.
私はアフリカの子供たちを助けるために10ドル寄付しました。それが大海の一滴にすぎないことは私も分かっています。でも、何もしないよりはマシです。
今回は、以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。